中学の国語教師は、ガッツ石松に似ていた。
笑った時に見える歯間はヤニで茶色くところどころ欠けていた。
タバコ臭く、シャツはチョークと汗でいつも黄色かった。
ニャっと笑うと、
教室のあちらこちらから「きゃあ」とか「きしょ・・」という声がこぼれた。
そんな反応をむしろ本性から喜んでいるような、変態。
教科書に谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」が取り上げられていた。
内容はほとんど覚えていないが、作品の解説をする彼の様子は覚えている。
古めかしい料亭
薄暗い灯籠、
ゆれるろうそくの火
遠くに三味線の音、
ちびりちびりとすする
そんな感じやね。あーん、もう、帰って酒を飲みたいですな。
君たちにはわからんでしょうが、そのうち、まあ、わかる、で、しょう。
かみしめ、区切りながら言うと、ゆっくり舌舐めずりをした。
今、酒を飲み干したかのような、至福の舌舐めずりをゆっくりと。
落語家以上の自然さ。彼の脳は本当に酒を飲んでいたに違いない。
あれから、二十年過ぎ、
陰影について、酒について、思いを巡らせると、
あの時の彼がリアルに甦り、舌舐めずりをしてニヤッと笑む。
ようやく理解できた。 彼の授業は、完璧だ。
