カウンター

2010年5月1日土曜日

磯崎憲一郎 「終の住処」

第141回 芥川賞受賞作

結婚をした後に時折、不機嫌になる妻。理由はわからない。
かつては妻の浮気を疑っていた彼のほうが下らない女と浮気する。
主人公が過去を回想し話を進めるのだが、なぜか“彼は”と表現している。

・・・・・
彼だけが狂っているのか、もしくはまったく同じ意味で、狂っていないのは彼だけか。そんな孤独な思いにふたたび囚われるのだった。
・・・・・
翌朝、妻は彼と口を利かなかった。
次に妻が彼と話したのは、それから十一年後だった。十一年というもの、彼が家で食事をすることはなかった。朝は妻と娘が起きるよりもまえに家を出て、駅の売店でパンと飲み物を買った。
・・・・・

ここまで極端な事情になることはめったに無いだろうが、我が家に居心地の悪さを感じたり居場所がなくなってしまった孤独なお父さんというのは意外に多いのではないだろうか。浮気をしたり、酒におぼれたり、あるいは仕事三昧な夫というのは、単にそこに逃げ込んでいるだけかもしれない。主人公の悲しく乾いていく心が見えたような気がする。ただし描かれている時間の流れがあまりにも早すぎてどっぷりと主人公に自分を重ね合わせることができなかった。

受賞後の対談で作者は、以下のような主旨の発言をしている。

・・・・・
単なる夫婦のすれ違いやぎくしゃくした不幸な関係を描いたわけではなく、このようなまずい関係でも40年経てば重いものになる。
・・・・・

『一緒に過ごした時間の重さ』がメインテーマということ。
何十年もの大きな時間を歩き抜けてみると、殺伐した心象が静寂に変化していたなんてことが本当にあるのか。すぐに離婚してしまう現代人にはわかりえない。

それにしても、山田詠美さんの「選評」で落選者に対するコメントは酷すぎる。石原慎太郎さんも率直な評価を持ち味にしているのだろうが、失礼すぎる。

終の住処