奇想天外なストーリー展開などない。どこにでもいそうな地味な女の日常と揺れ動く機微が巧緻に描かれている。
工場の生産ラインで働く29歳契約社員のナガセは職場に張ってあった世界一周クルージング旅行に魅かれた。その代金は163万円で彼女の年収と同額であった。その費用を捻出するために切り詰めた生活を始める。
大学時代の友人三人との関わりの中で、女性にとって結婚とは何なのか、人生とは何なのか、といった苦悩が語られるのだが、けっして暗くはなく、むしろ前向きで楽しそうにさえある。主人公はかつて鬱病であったことが示唆されているが、私はこのような人物は鬱にならないと思う。
・・・・・
「時間を金で売っているような気がする」というフレーズを思いついたが最後、体が動かなくなった。
・・・・・
生きている自分に吐き気がしてくる。
・・・・・
なんとか生き長らえているという自分の生の頼りなさに。それを続けなければいけないということに。
・・・・・
「アサッテの人」に同主旨の表現をみた。このような不条理が現代社会の本質だと感じる人は多いはずだ。生きにくい社会、かろうじて生かされている自分、両者の関係に苦悩するのは普遍的なものなのだから。
選者である伊澤夏樹さんの以下の評が的を射ていて共感できる。
・・・・・
小説は社会を表現するために書かれるのではない。生きた人間たちを書いて、結果として彼らが生きる社会が描かれる。そこで社会は背景であって主役ではない。
・・・・・
ぼくにはナガセが生活の優等生のようにも見えた。作者もまた細部まで計算の行き届いた優等生、というのは言い過ぎだろうか。問題はこの行き方を肯定する今の社会の側にあるのだから。
・・・・・
石原氏は「無劇性の劇のくり上げ当選」とあいかわらず大変失礼なコメントをしている。
ポトスライムの舟
ちなみにポトスライムとはこんな感じの植物。やさしい女性的なみどりの葉ですね。
ポトスライムの写真
