1980年代も終わりかけた、小春日和の昼下がり。
高校生の僕は友人の家に勉強にいく、
という名目で遊びに行った。
友人は田舎の良家の坊ちゃんでかなり裕福だった。
僕の家のすべてが入ってしまうくらい広いリビングで
勉強するふりをしながら、僕達はだらだらと雑談をしていた。
リビングには、とてつもなく大きな窓があり、
目が悪くなるくらいまぶしい明るさだった。
壷から水を注いでくれる天使の噴水がある中庭に面していた。
中庭や噴水なんてお金持ちの象徴だ、
僕の母なら余った土地が少しでもあれば
すぐに耕しトマトやタマネギなんぞを栽培することだろう、
こんな田舎に中庭なんかいらんだろ、
さわやかすぎるお坊ちゃんとの雑談の合間に中庭に目をやりながら、
裕福な家に対する嫉妬と羨望と嫌悪を少しずつ感じていた。
友人がトイレにいった隙に、
リビングから中庭におりてみた、なんとなく。
名前もしらない赤やピンクが咲き誇る花壇や
水の出ていない噴水をぼうっと眺めた。
ささやくような歌声が聞こえてきた。
友人の妹だ。田舎には不似合いなくらいの美少女だ。
中庭の向かい側に彼女の部屋がある。
歌声が聞こえてくる部屋の窓の両側には白い大きなヒダのようなヒラヒラがついたレースカーテンがあり、
カーテンは半ばまで、窓は全てが開けはなたれていた。
そこから窓の外に白くて細い腕が一本のびている。
窓際のベッドに美少女が横たわり、
空に向かって手をあげながらささやくように歌っている。
あまりにも幻想的で甘美な光景。
僕は身動きできなくなり、数秒遅れて心拍数は急上昇してきた。
息をするのも少し苦しかった。
あの部屋を覗いてみたい、
あの手に少しでも触れてみたい、
そんなことをしたら軽蔑されるだろうか、
もしかしたら微笑んでもらえるかもしれない、
衝動と妄想に折り合いがつかないまま、呼吸を抑えながら、
あの窓に向かって歩もうとした瞬間、
「食糧、調達してきたぞ」
背後に友人がポテトチップスの袋を頭上に挙げて微笑んでいた。
「おう、サンクス。」
と呟くような生返事をしてリビングに引き返した。
「あいつまたステレオかけっぱなしにして、窓あけたまま寝とるな」
そうかあれは彼女の歌声ではなくレコードか何かをかけていたんだ、
と思ったのは、その日の夜遅く、帰りの汽車中であった。
しばらくしてコーヒーのCMで使われているのを知った。
まぶしい芝生の広い庭、白いハンモックに横たわった金髪女性がささやくように口ずさんでいた。
「あの曲は誰のなんて曲?」
と追求するのも忘れて見とれた。
あれから20年以上の月日が経った。
甘美な小説を読んでいた時、
彼女の白い腕が窓から天に向かっている情景を突然、思い出した。
もう一度聞いてみたい、あのささやくような歌声を。
そう思うと、いてもたってもいられない。
もどかしいことだが、歌手の名前もタイトルさえも知らないままだった。
先日、twitterで呼びかけてみた。
twitterってすばらしい、教えてくれた人、ありがとう。
とてもすっきりした
Suzanne Vega "Tom's Diner" 1982
I am sitting
In the morning
At the diner
On the corner
I am waiting
At the counter
For the man
To pour the coffee
And he fills it
Only halfway
And before
I even argue
He is looking
Out the window
At somebody
Coming in
"It is always
Nice to see you"
Says the man
Behind the counter
To the woman
Who has come in
She is shaking
Her umbrella
And I look
The other way
As they are kissing
Their hellos
I'm pretending
Not to see them
Instead
I pour the milk
I open
Up the paper
There's a story
Of an actor
Who had died
While he was drinking
It was no one
I had heard of
And I'm turning
To the horoscope
And looking
For the funnies
When I'm feeling
Someone watching me
And so
I raise my head
There's a woman
On the outside
Looking inside
Does she see me?
No she does not
Really see me
Cause she sees
Her own reflection
And I'm trying
Not to notice
That she's hitching
Up her skirt
And while she's
Straightening her stockings
Her hair
Has gotten wet
Oh, this rain
It will continue
Through the morning
As I'm listening
To the bells
Of the cathedral
I am thinking
Of your voice...
And of the midnight picnic
Once upon a time
Before the rain began...
I finish up my coffee
It's time to catch the train
