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2010年6月25日金曜日

中村文則 「掏摸」

第4回(2010年)大江健三郎賞受賞作

小説は創作でありリアリティなんかいらない、という人もいる。そうかも知れない。要は作者の描く世界の質感に共感できるかだけであろう。「」という作品もそうであったが、この作品にもリアリティがある。銃なんかもったことがないが、もったことがあるような感覚を想起できた。この作品では、スリをする瞬間の感覚と心理がリアルに共感できる。スリをしたことがない、スリを見たことがないにも関わらず。強いて難癖をつけるとすれば、主人公の切迫した心理状態を作る設定として巨悪よりも小悪、くだらないものであった方が私のやるせなさ感は長く尾を引いた。

幼少のころから時々みえる「塔」が、本作品の中心に存在する。多くの読者はこれをイメージできるだろうが、これが具体的に何を意味しているのか、をうまく説明できる人は少ないだろう。
群像2010年7月号に大江氏の対談が掲載されている。そこには中村氏の「塔」の意味が語られているはずだ。自分の答えをまとめてみてから答え合わせをしてみるのがとても楽しみだ。

中村文則さんの作品はすばらしい。
掏摸